短歌人6月号より その3 会員2

デザートの苺のにほふくちびるが吾にむかひてささやく喃語     桃生苑子 <br>   まだ意味のある言葉を話せない、幼い子供です。 <br>   いちごのにほふくちびる、の旧仮名遣いの平仮名によつて、いかにも愛らしい。 <br>夏休み絵日記忘れ捏造すその一日の輝きにけり     京藤好男 <br>   一首はいささか言葉の足らない印象ですが、結句が好きだ。 <br>   忘れたと言ふか、怠けてゐた夏休みの日記帳を、一日ででつち上げてしまつた作者です。 <br>   それの一日を「輝きにけり」と言ふ、ここが好きだ。 <br>吹きつける風が強くて目をつぶる世界はもっとおおらかでいい     葉山健介 <br>   いろんなものの風当たりが強い此の日頃かも。 <br>   思はず、目をつぶることだつて。 <br>   つつぱつてばかりはいられない。 <br>四月ひえてさくらの花のちりどころ訃報はいらぬそんなに逝くな     松岡修二 <br>   桜と散るばかりじゃぁないんだらうけれど。 <br>自治会の掃除四月にありたれど言ひ訳をして休みてしまひき     河村栄二

<br>   ありふれて思える日常だけれど、この平らな言い方が、如何にもこの一首に似あつてゐる。 <br>父の歌が遠くに聞こゆ 子を抱いて静かな歌を口ずさむとき     三好悠樹 <br>   我が子を抱いて静かな歌をくちずさみながら寝かしつけてゐる。 <br>   その時、作者が幼かつた頃に、父が作者のために歌つた声が聞こえた。 <br>   父から子へ、そしてその子へ、流れ続くものがある。 <br> <br>