Nocontrol139

妄想のお話です。

展開が遅いですね、すみません。

次?には書けるかな?

出社後の例のセリフの真相!

嵐の前に幸せな話が書きたいんだ(笑)

因みに私は人前式だった

Side櫻井

今日の予定はどんな感じですか?

えっと

分かってる。

大野さんにやることなんて山ほどある。

フェロモン遮断のフィルターを大型ホテルに設備することについて調べたり、なるべく高性能で安価なものを使用できるよう交渉したりしないといけないし、ヒート施設を回って利用者のアンケートを取れるか聞きたいと言っていた。

リネン(洗濯)のアイディアも、他フロアと仕組みは全く異なるわけだから、本格的に大宮の建設中のホテルの設計図と照らし合わせて詰めないといけない。

ゲーム側の取材やら佐藤くんへの挨拶やらも顔を出したいって言ってたし。

やっぱ忙しいですよね?

思わず苦笑する。

あうん

たまには出かけたりとかそんな甘い事考えてたけど。

まぁ無理だよな。

肩を落とすと、俺と大野さんの携帯に同時にメールが届く。

ポップアップには雅紀さんの名前。

昨日、全員でグループメールを作ったのだ。

大野さんと目を合わせ、個に開く。

おはよー今日は祝日だよ!俺も休むし、皆も休むこと!智もだよ?!わかったね!!上司命令!(笑)皆、大好きな人とデートするなりして楽しんで勿論、1日引きこもってずーっとイチャイチャしててもいいんだよ俺はムフフ内緒だよー

まるで見てたかのようなタイミングに、思わず大野さんと笑った。

俺櫻井さんと行きたいところ、あるの。

えっ!

ちょっと遠いけど付き合ってくれる?

勿論です!よっしゃぁ!デート!!!

雅紀さん、ありがとうございます!!

俺は心の中で雅紀さんに全力で土下座した。

電車を1時間程乗り継いで連れてきてもらったのは、海街にある白い小さな教会。

年季の入った木の壁や標識は、潮風のせいかかなり傷んでいるし錆も目立つ。

そんなに豪華な所じゃない、いわゆる普通の結婚式に使われるようなものじゃなくて、キリスト教の人が懺悔しに訪れるような、小さな小さな教会。

とは言え、使われてる形跡がないから、多分、牧師さん的な人はいない。

地元の人に開放しているのだろう。

少し埃っぽいけど、廃墟と化しているわけでもないし、比較的綺麗にされている。

ここは?

チュウとハルが結婚式したとこなの。

えっ

予想外の言葉に驚いて、改めてきょろきょろ見回す。

しんとした教会内はどこか外気を遮断して別世界のように感じる。

カーテンの開いた窓が少なく太陽光があまり入らないせいか、少し肌寒い。

いや、正確には結婚式は違うところでしたんだけど、ここで最初に二人きりで誓い合ったんだって。永遠の愛ってやつ。

真ん中に堂と十字架が掲げられており、小窓から差し込む光でキラキラと光る。

宗教は特にない。

だけどそこが神聖だと感じるのは至極自然なことだと思う。

それくらいに弱い光は神しく、冷たい空気は妙に心を落ち着かせた。

チュウさんとハルさんが。

結婚式ってさ、皆の前で神様に誓うか、来てくれる皆に誓うじゃん。

後者は人前式ですね。

よく知ってるね、と笑われる。

教会での誓いは教会式と人前式があり、一般的には牧師を立てて神に二人の愛を誓う。

いわゆる、病める時も健やかなる時もってやつだ。

最近出席した友人の式は人前式だった。

人前式は参列者に、自分たちの言葉で、自分たちの誓いを立てて証明してもらう形式だ。

チュウとハルが先に小さな教会で誓い合ったって聞いた時、何で?って聞いたんだ。だって神様や皆の前で誓う予定なのに、わざわざ二人で別のとこで誓う必要ある?って。けむに巻いて教えてくれなかったけどね。

少し前にいる大野さんの表情は見えない。

でもね、今なら分かるよ。何で結婚式前に、二人きりで誰もいない教会に来たのか。

何故です?

くるっと振り返る大野さんは、柔らかい笑顔だ。

きっと、相手に誓ったの。誰もいない所で、大切な人だけに。

相手に。

神でもなく、参列者でもない。

1番大切な。

相手だけに。

まぁ、結局神様の前なんだけど。

大野さんがふふっと笑い、二人で十字架を見上げる。

ずっと不思議だったことがある。

エスキリストは磔の刑に処された。

仲間のユダに裏切られて。

裁判になった時、他の11人の使徒にも裏切られた。

それでも彼は誰も責めず、皆を赦した。

どこまでが本当の話なんだろうか?

キリスト教じゃないし、正直詳しくはないが、子ども心に疑問だった。

何故彼は裏切り者を赦したんだろう、と。

ユダは勿論、イエスを庇わなかった他の弟子達も。

信頼していたであろう十二使徒全員が裏切ったのに、イエスは誰のことも恨まずに十字架にかけられた。

磔の最中、イエスの口から紡がれた言葉は、

神よ、この者達をお許し下さい。彼らは自分が何をしているか分かっていないのです。

などという慈悲の言葉だった。

結局ユダだけは己の罪に堪え切れずに自殺した。

その後のイエスの復活、そして赦すとの言葉を聞けなかったのは、使徒の中でユダだけだと記されている。

もしユダが生きていたら、一番の裏切り者のユダの前にもイエスは現れたのだろうか。

それがずっと気になっている。

だからね。

穏やかな声に、はっと我に返る。

大野さんが俺の目の前に戻ってきて、両手を掴む。

俺、櫻井さんに誓ってもいい?チュウとハルが誓い合った、ここで。

恥ずかしそうに笑う大野さんを、思わず抱き締める。

わっ、

いいに決まってるでしょう?嬉しいです!チュウさんとハルさんと同じ所で誓えるなんて。俺はあなたと、お二人のような夫婦になりたいんだから。

櫻井さん。

至近距離で見つめあって、ふっと笑う。

正式な言葉知らないけど、いい?

俺も知らないですし、それは本番でってことで。

くすくす笑って、少しだけ距離をとる。

だけど両手は繋いだまま、熱い視線も絡ませたまま。

二人が、苦しい時も。悲しい時も。寂しい時も。楽しい時も。嬉しい時も。幸せな時も。息をするのすら辛い時も。例えどれだけ離れてしまったとしても。どんな時でも。

櫻井さんのこと、何があっても愛することを誓います。

大野さんがじっと俺の目を見て、ゆっくりと言葉を選ぶように口にする、誓いの言葉。

教会は薄暗い。

だけど、この距離ではまつげの一本一本まで見て取れる。

溜まる涙で大野さんの瞳が揺れる。

少し、緊張してる。

かくいう俺も。

瞬きすら惜しい、と感じる。

大野さんの姿を、言葉を、しっかりと脳裏に焼き付けたい。

どんな一瞬も、見逃したくない。

俺もあなたがどれだけ自分を責めても。落ち込んでも。大喧嘩しても。たくさん傷付いて、目が腫れる程泣くようなことがあっても。俺はあなたの隣にいて、護りたい。

大野さんのこと、何があっても愛することを誓います。

そっと自然に近付いて

唇を、合わせた。

籍も入れてなければ誰に見られた訳でもないのに

もう、誰にも何にも邪魔されることはないって

不思議とそう、確信した。